第1回 拡大するアフリカ中古市場

1. アフリカ中古市場の全体像

アフリカ市場の経済成長性は非常に高く、今後数十年にわたり世界で最も急成長する市場の一つとして注目されています。アフリカ開発銀行によると、アフリカの経済成長率は2024年に3.8%、2025年に4.2%と世界平均を上回る成長が予想されています。アフリカ人口は2100年ごろまで拡大が続くことに加え、2030年には人口の40%以上が中間層に属すると見込まれており、今後の更なる消費市場の拡大が期待されます。

図1:世界とアフリカの人口推移
(出所:国連データをもとに作成)
世界とアフリカの人口推移

中でもアフリカの中古市場が近年急速に成長していることをご存知でしょうか。主な要因は以下に挙げられます。

中古品を好む購買特性
購買力が向上する一方、多くのアフリカ諸国では新製品購入のコスト負担は依然として大きく、多くの消費者において中古品を好む傾向が見られます。

都市化と中間層の増加
都市化が進み、中間層が増加する中、中古品はコストパフォーマンスの高い選択肢として支持を得ています。

デジタルプラットフォームの普及
通信インフラ環境の向上に伴い、オンラインマーケットプレイスが成長、個人間の取引や中小企業の販売が活性化しています。

図2:ケニアのオンラインマーケットプレイスの例
(出所:JETRO『③ケニアのEコマース市場』をもとに作成)
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サステナビリティの意識
アフリカにおいても、生活水準の向上と共にサステナブルな社会構築の必要性が高まっており、環境負荷を軽減するリサイクルやリユースを推奨する動きが一部の地域で進んでいます。

以上の背景から、アフリカにおける中古市場は成長が進んでおり、現在日本からも中古車や家電、衣類をはじめとする多様な中古製品がアフリカへ輸出されています。

2. 中古品セグメントごとの特徴

日本からアフリカへ輸出される中古品は多岐にわたります。その中でも注目すべきセグメントを紹介します。

自動車関連
アフリカにおいては、車両全体の85%を中古車が占めており、2024年のアフリカの中古車市場規模は約404億ドルに上ります。CAGR(年平均成長率)は8.65%と見込まれており、2029年には約612億ドルを超えると予想されています。

図3:アフリカにおける中古車市場規模
(出所:Mordor Intelligenceをもとに作成)
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日本からの中古車輸出は2023年には29万2,779台(1,695億円)あり、国別にはタンザニア、ケニア、南アフリカの順で多く、特にタンザニア、ケニアでは、日本からの自動車輸出の大半を中古車が占めています。また、日本の中古自動車部品も、日本車が広く普及していることもあり、高い需要があります。エンジン・トランスミッション、サスペンション・シャーシ部品、ボディ部品、電子部品、タイヤ・ホイール等、様々な部品が現地で重宝されています。

オートバイ関連
オートバイは、アフリカにおいて持続可能で効率的な移動手段として、消費者の関心が高まっています。特にナイジェリアでは、持続可能なモビリティの利用が政府により後押しされており、需要が拡大しています。アフリカ全体の二輪車市場(新車を含む)は2024年に約87.3億ドル、2030年には117.1億ドルに達する見込みで、CAGR(年平均成長率)は5.01%とされています。国別には、ナイジェリア、ケニア、南アフリカが主要な市場となっています。こうした背景から、日本からアフリカへの中古二輪車・二輪車部品の輸出も、拡大していると見られます。

電化製品・IT機器
アフリカ・中東における白物家電市場は2023~2030年で、CAGR(年平均成長率)6.70%が見込まれています。この市場成長は、新品家電だけでなく、高品質な中古家電の需要増加にも寄与すると考えられています。特に日本から輸出される家電・IT機器のリユース品は、品質の高さや耐久性からアフリカで需要が拡大しています。国別にはナイジェリア、ガーナ、タンザニア、南アフリカ、セネガル等が輸出先として挙げられます。各国の経済発展の状況やインフラ状況に応じ、家庭向けの家電、スマートフォン等からビジネス需要の中古パソコン、IT機器まで幅広い品目が輸出されています。

重機
アフリカ各国は道路、橋、港湾、都市開発のために多くのインフラプロジェクトを実施しており、建設重機の需要が高まっています。アフリカ・中東における市場規模は現在約42億6,000万ドルあり、今後5年でCAGR(年平均成長率)4%成長すると見られています。それに伴い中古重機市場も成長が予測されており、日本からの中古建機輸出も今後増えていく可能性があります。国別には、道路建設、都市開発、インフラ整備プロジェクトでの建機需要が急増するケニア、ナイジェリア、タンザニア、南アフリカや、鉱業の発展に伴い中古の掘削機、ブルドーザー等を輸入するガーナ等が挙げられます。

農機
日本製の農機もまた、その高品質・耐久性からアフリカ市場でも高く評価されており、農業の近代化に大きな役割を果たしています。日本の中古農機も輸出されており、新品より安価で入手できることから、予算の限られた小規模農家にとって重要な選択肢となっています。輸出先としてはGDPの大部分を農業が占めるケニアや、西アフリカ最大の農業国であるナイジェリアの他、タンザニア、エチオピア、ガーナ等が挙げられます。

3. アフリカ向け中古輸出事業がもたらすメリット

アフリカにおける日本製中古輸出事業の拡大は、経済的・社会的・環境的な面で多くのメリットをもたらします。

経済面
日本製品は、高品質且つ耐久性に優れている点で、アフリカにおいて信頼を得ています。中古品であれば、アフリカの消費者が比較的低価格で手に入れることができるため、経済的にも魅力的な選択肢といえます。更に、中古品の輸出入を通じ、現地では輸送・販売・修理等のサプライチェーンが形成され、多くの雇用が生まれる点においてもメリットといえるでしょう。

環境面
アフリカ諸国においても、資源の再利用と廃棄物の削減を目的としたサーキュラーエコノミー(循環型経済)への注目が高まっています。その一環として、日本からの中古品輸入が、環境に優しい選択肢として捉えられています。また日本側の視点に立つと、日本の中古品がアフリカで再利用されることにより、製品寿命の延長が可能となります。これにより、日本における廃棄物問題の緩和が期待されます。

社会面
中古車や中古家電等の高品質な日本製品の普及により、現地の人々の生活水準向上に貢献することができます。また、中古の重機や農機、商用車が普及することで、インフラ整備や農業の効率化が進み、地域全体の発展が促されます。

4. アフリカ向け中古輸出事業に取り組む日系企業の事例

商船三井は、農機具流通プラットフォーム「noukinavi.com」を運営する唐沢農機サービスと業務提携し、2021年5月KiliMOL社を設立しました。KiliMOL社は、アフリカにおける農業の機械化の必要性と中古農機の需要増加に着眼し、農業大国ケニアにて、農機の需要開拓や自動車船による農業機械の輸送等を行っています。ケニアではコメの消費量・生産量とも増加しており、政府は米作灌漑地域の拡大に力を入れています。一方、現地では田植えをほぼ手作業で行っており、その拡大ペースに人手が追いつかず、機械化による効率化が求められていました。KiliMOL社の取り組みは、単なる農機輸出にとどまらず、ケニア政府とも連携した技術支援や、現地に合った大規模な育苗環境の整備による、田植機の普及・促進に及びます。使われなくなった日本の中古農機を活用しつつ、現地の農業の生産性向上や飢餓・貧困の削減への貢献を目指している点で、注目すべきビジネスモデルといえるでしょう。

写真:ケニアで導入された日本の田植え機
(出所:Kenya News Agency『Govt partners with KiliMOL to modernise rice farming』)
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5. アフリカ中古市場における留意点・成功のポイント

アフリカ中古市場に参入するにあたっては、現地のビジネス環境や市場特性、環境への影響を深く理解し、適切な戦略を立てることが重要です。

国際規制と各国の法規制への対応
中古品を海外に輸出する際には、バーゼル条約をはじめとした国際的な法規制や、日本の国内法規制、輸出先国の法規制に注意する必要があります。輸出先国における安全性や環境保全の観点から、電子廃棄物や動作が確認されない家電製品等の輸出には制限がかかり、輸出先国によっては電子機器や自動車に年式制限や排出ガス規制等への遵守が求められます。これら法規制により生じるリスクは、例えば「再利用可能な製品に限定して輸出する」「動作確認を徹底し、証明書を添付する」「中古品を適切に販売・再利用する現地パートナーと提携する」等を通じて軽減することができます。

多様な現地市場の把握と価格戦略
アフリカといっても各国・地域の文化的背景や消費者ニーズ、経済状況は異なり、非常に多様な市場です。このため、現地市場の調査により、求められる製品、品質レベル、価格とのバランスを国・地域ごとに検討することが重要です。また、中国、韓国、欧州等の他の輸出国の製品の流通状況を知ることも有益といえます。

現地企業との提携
アフリカビジネスにおいては、複雑な通関手続き、ロジスティックス、販売網の確保等が課題となることが多く、信頼できる現地の販売代理店や輸入業者を選定する必要があります。また環境面から、適切に中古品を流通する企業であることも、重要なポイントとなります。信頼できるパートナーを探索するには、現地企業に精通したコンサルティング会社に依頼する、現地の商工会議所やJETRO等を通じてネットワークを構築する等のアプローチが考えられます。

環境・サステナビリティへの配慮
先進国からの中古品が、現地の人々の暮らしを豊かにする半面、その後廃棄物となり現地の環境に影響を与えていることも事実です。修理に必要な関連部品も合わせて輸出することで製品寿命を長くする、日本のリサイクル技術・設備の導入を支援する等の多角的な取り組みが、中古輸出事業を持続的に発展させることに繋がるでしょう。

[参照ソース]
・JETRO地域・分析レポート
『アフリカの人口急増と物流・貿易動向』『自動車販売・生産、日本からの輸出動向(アフリカ)』
・JETRO『③ケニアのEコマース市場』『貿易・投資相談Q&A』
・貿易ドットコム『アフリカマーケットの魅力とは?市場調査のやり方』
・Mordor Intelligence『アフリカの中古車市場規模とシェア分析』『中東・アフリカの建設機械市場規模と市場規模分析』
・Research and Markets『Africa Two-Wheeler – Market Share Analysis, Industry Trends & Statistics, Growth Forecasts (2024 – 2030)
・(株)商船三井プレスリリース